「おきなぐさ」
このおはなしは、〈植物の聖性〉と〈死とは何か〉が語られています。宮沢賢治が本当に深く植物と出合うことによって生まれた作品だと思います。
植物は生まれついてのデクノボーさん、もっとも弱く小さな者の姿をした聖者です。あまりにも貧しく小さき者のかたちなので、私たちはなかなか気付くことが出来ないのです。けれども妹を喪った賢治さんは、妹にも似た儚い命のおきなぐさの密やかな声に耳を傾けます。それがこの作品になったのではないかと想像します。
宮沢賢治はなくなる前お母さんに、自分の童話は仏さまの教えを書いたものだから、いつかはみんなが喜んで読むようになると言ったと伝えられています。この作品は本当に仏さまのことばが、もっとも易しく優しく語られているようです。あまりにもやさしくて、あたかも風に吹かれる草穂のように何気ないさわやかなことばで。人はどこからきて、どこへ行くのか―死とは何か、死を知ることはすなわち〈生〉を知ることです。これが子供にも大人にも、きっと死を前にした人にも優しく語りかけてくれる、そんな作品です。
文/熊谷えり子
☆この作品を深く魂で感じるのには、この作品の心をメロディーで聞きとった青木由有子さんの「おきなぐさ〜風と草穂〜」(ライヤーの弾き語り)をお聴きになると、とてもいいです