それですから、深い霧がこめて、空も山も向ふの野原もなんにも見えず退くつな日は、稜のある石どもは、みんな、ベゴ石をからかって遊びました。
「ベゴさん。今日(こんち)は。おなかの痛いのは、なほったかい。」
「ありがたう。僕は、おなかが痛くなかったよ。」とベゴ石は、霧の中でしづかに云ひました。
「アァハハハハ。アァハハハハハ。」稜のある石は、みんな一度に笑ひました。
「ベゴさん。こんちは。ゆふべは、ふくろふがお前さんに、たうがらしを持って来てやったかい。」
「いゝや。ふくろふは、昨夜(ゆふべ)、こっちへ来なかったやうだよ。」
「アァハハハハ。アァハハハハハ。」稜のある石は、もう大笑ひです。
「ベゴさん。今日は。昨日の夕方、霧の中で、野馬がお前さんに小便をかけたらう。気の毒だったね。」
「ありがたう。おかげで、そんな目には、あはなかったよ。」
「アァハハハハ。アァハハハハハ。」みんな大笑ひです。
「ベゴさん。今日は。今度新らしい法律が出てね、まるいものや、まるいやうなものは、みんな卵のやうに、パチンと割ってしまふさうだよ。お前さんも早く逃げたらどうだい。」
「ありがたう。僕は、まんまる大将のお日さんと一しょに、パチンと割られるよ。」
「アァハハハハ。アァハハハハハ。どうも馬鹿(ばか)で手がつけられない。」